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第5回 2003.11.1
ドイツ南部のアルプス山村“オーバーアマガウ”(“Oberammergau”)
─ 10年に1度の村人総出の“キリスト受難劇”─
  オーストリアとの国境に近いドイツ南部のアルプス山間に、“オーバーアマガウ(Oberammergau)”という村があります。2000メートル級のアルプスの山々に囲まれ、海抜834メートル、その名の由来でもあるアマー渓谷に位置しています。人口およそ5000人(戦前は3000人)の小村ですが、世界中にその名を知られる村でもあります。
 ここでは10年に1度、村人が総出演の“キリスト受難劇(Passion Play)”が上演されます。初回は1634年、2000年には第40回を迎えました。

 そもそも、なぜこのような山間の小村でキリストの受難劇が演じられているのでしょうか。
 1633年、ヨーロッパではドイツを舞台にした30年戦争の真最中、“ペスト”が流行しました。ヨーロッパでは歴史上何度かこの伝染病が大流行しています。“黒死病”と恐れられ、人々がバタバタと亡くなっていきます。30年戦争の最中この地域でもペストが大流行し、多くの村人が亡くなりました。残された人たちは神にペストの終焉を祈願し、10年ごとの受難劇の実施を誓います。翌年、教会に隣接する墓地で最初の“キリスト受難劇”が演じられ、それが今日まで継続されているのです。

 キリスト、聖母マリア、ローマ兵など登場する役者は皆村人、アマチュアです。学生、公務員、学校の先生、宿屋の経営者、彫刻家など、その職業は様々で、もちろん上演年以外は日常の仕事に就いています。
 ちなみに手元の資料によれば、1990年のキリスト役は、24歳と28歳の共に公務員の男性でした。午前に開演して、途中数時間のお昼休みを挟み、午後の部があり、夕方まで丸1日がかりです。この年、5月21日から9月28日までの開催期間に、外国からの訪問者向けに75回、ドイツ国内からの訪問者向けに20回、受難劇が上演されました。期間中の総訪問者数は50万人、村人の約半数が役者やスタッフとして活躍したそうです。
 会場となるのは数千人の観客を収容できる専用の大劇場で、舞台はオープンエアー、背景にはバイエルンの山や空が広がります。

 ところで、この村を有名にしているのは受難劇だけではありません。建物の外壁が美しい“フレスコ画”で飾られている村としても知られています。“フレスコ”は英語の“フレッシュ”の意味ですが、壁に塗った漆喰が乾かないうちに顔料をのせ絵を描く手法です。ここでは宗教的なテーマに加えて、「ヘンゼルとグレーテル」「赤ずきん」といったドイツメルヘンが、そのモチーフとなっています。
 また、伝統的な木彫工芸も有名で、人口の1割は古くから木彫により生計を立てています。現在では、スキーやクロスカントリーなどのウインタースポーツの施設が充実し、取り巻く山々の頂からは、アマー渓谷とバイエルンの山並みが楽しめます。

 少々足を延ばせば、エッタール(Ettal)のベネディクト派修道院、緑の野原に建つロココ様式の瀟洒なヴィース教会、バイエルン王ルードヴィッヒ2世によって建てられた‘リンダーホーフ城’‘ノイシュバンシュタイン城’‘ヘレンキムゼー城’、また、ドイツ最高峰ツークシュピッツェ(Zugspitze)(2962メートル)など、観光ポイントが点在します。1936年に第4回冬季オリンピックが開催された“ガルミッシュ・パルテンキルヘン(Garmisch-Partenkirchen)”(ガルミッシュ村とパルテンキルヘン村が合併)も間近で、そこにはカジノや保養施設が整っています。

 さて、次回の受難劇の上演は2010年。上演の年に訪問できれば大いに記念になりますが、アルプスの自然、フレスコ画に飾られた素朴な村のたたずまい、そして10年に1度役者になるこの地の穏やかな人々は、いつであっても訪れる旅人を暖かく迎えてくれることでしょう。
(掲載写真“Oberammergau” Adam printing Co.より)
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