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第9回 2004.2.20
日本の『観光学教育』。これでいいのですか? |
最近、「観光学」を教える大学が全国にかなり増えてきました。誠に結構な現象といえます。ところで、その中身をちょっと突っ込んで見た場合はどうでしょうか。入門編の「観光学概論」に加えて、「旅行ビジネス論」、「観光産業論」などのわずかな科目を前面に出し、“観光”を売り込んでいる大学が少なくありません。これらの2、3の科目を履修すれば、人気産業と見られている「旅行会社」、「航空会社」、「ホテル」、「テーマパーク」などへの就職に有利で、少子化の中で学生集めに成功するとの魂胆なのでしょうか。近頃の、全国の大学での「観光学」の取り上げ方は、表層的でなにやら就職のための色彩を色濃く与えています。
一方で、「観光学」をより広くそしてより深く教育・研究をと、「観光学部」や「○○観光学科」などが、全国的に徐々に設立されてきています。中でも、観光関連科目が比較的に多い、「観光学部」を持つ大学が、日本で現在3校誕生しています。これらはすべて国・公立ではなく、私立大学だけの現状になっています。私の勤務する大学はそのうちの1つであり、観光学部だけからなる“日本で唯一の観光単科大学”で、いわば「日本観光大学」であります。
しかしながら、たしかに様々な分野の教授が集まり「観光学」にアプローチをかけていますが、それでも現段階の観光学教育に対して、不十分さを強く感じています。これはなにも当大学だけの問題ではなく、冒頭で述べたような日本全体の観光学教育に当てはまることだろうと思っています。
特に、次のような問題が指摘できます。近年、国際間の人的交流が盛んになり、「国際観光」が活発になっているにもかかわらず、大学生への観光教育の現場では、それに即した深みのある国際観光教育に欠け、国際観光の側面がアウトバウンド、すなわち日本人の海外旅行を取り巻く現象・産業を中心としたものになっています。最近、わが国が強力に歩み出したインバウンド観光の教育に対して、たしかに入門的にはなされていますが、「観光立国・日本」を築ける内容の教育にはなっていないということです。それはなぜならば、大学は観光産業界の要請に沿う教育機関となっている傾向があり、その結果、アウトバウンド中心の教育に偏りがちになっています。
事例までに、旅行ビジネス論や観光産業論の教科書を取り上げて見ましょう。ほとんどがアウトバウンド関連であり、観光立国論の中心であるインバウンド分野に割かれているページ数は、全体の2〜3%に過ぎません。なかには、訪日外国人旅行論に全く触れられていない書籍も少なくありません。これに比して、海外諸国、例えば中国、韓国、オーストラリアなどでは、社会的に観光の重要性が認識されているせいか、観光学専門書ではページ数の多くがインバウンドに割かれています。同時に、大学での講義では外国人を迎えるホスピタリティ論が活発になされているというのが現状です。
たしかに、観光学教育は産業界に合わせた教育で、一方的にインバウンド教育を強めることは難しいと考えますが、ここ1、2年、強まってきた政府や民間組織のインバウンド観光強化の機運と相呼応して、学術界においてもインバウンド観光の重要性をより強く認識し、一歩先んじた教育を強力に推進させることが急務であると考えています。
このように、ますます重要となってきたインバウンド教育ですが、課題もあります。それは教授側にプロフェッショナルがほとんどいないことでありますが、これは実業界と共通した悩みがあるように思えます。将来のインバウンド観光を担う人材育成以前に、教育する人材難に直面している・・・これが現在の状況ではないかと思います。この対応策として、過去の本コラムで提言しましたが、外資系ホテルの外国人総支配人、外国政府観光局のプロフェッショナルなどの助力を得るのも一方策であり、更に、海外で教育・研究する教授を迎え入れることも日本の国際観光学をさらに進展させる原動力になると信じています。
また現在では、海外の大学や大学院で、観光学やホスピタリティの学問を学んでいる学生も少なくありません。卒業後、日系の旅行会社へ勤務した事例を2、3知っていますが、彼らが外国で学んだ観光学の知識を日本の大学で教授する例を、残念ながら聞いたことがありません。海外の大学・大学院で学んだ学生・研究者を、日本の大学は柔軟に受け入れていく必要があります。これにより、国際観光の論議がより深まっていくものと考えています。中国人や韓国人の海外(欧米や日本など)留学生は、卒業後に、自国または外国の大学で、教育・研究のポストに就くことが少なくありません。結果、これらの国々では、観光学がよりバラエティーになっているような気がします。
ところで、日本の観光産業界には、他産業で見られるような「産・官・学」による共同連携が少ないようです。ストレートに言えば、教授や研究者になかなか出番がないようです。たとえば、2001年のアメリカ同時多発テロで、アメリカの観光産業が落ち込み、その直後に、「アメリカ観光振興」を目指し、日米両国が官民こぞって、種々の論議を展開しましたが、残念ながら、日本の観光学術界からこれに加わったという話は聞いておりません。同様に、WTO(世界観光機関)などによる国際会議のスピーカーやパネリストへの参画も、日本には数多く観光学会がありメンバーが多くいるのですが、これらの会議に参画しているケースは極めて少ない状況です。今後は観光学術界から積極的に参加し、「産・官」と異なったアングルから意見具申をする一方、種々の国際会議に加わり外に向かって発信していく必要があるようです。このような環境になれば、活発化する国際観光のなかで、学生への観光教育内容はさらにレベル・アップされていくものと信じています。
さて、最後に、日本における観光学教育の程度を推し量る1つの現象として、街の書店での観光学書籍の販売について紹介しましょう。わが国の観光学専門書に関して、絶対的に冊数が少なく、また、陳列方法について、「観光学」または「観光論」で分類する店舗はほとんどありません。大部分は「産業論」、「都市論」、「商業経営論」、「交通論」など。なかには、『業界読物』コーナーに観光学専門書が並べられている書店もあります。これに引き換え、海外諸国、特に観光立国と称される国々については、中国を筆頭に、韓国、オーストラリアなど「観光学」(「旅游学」)または「Hospitality」として書店で区分されることを見ますと、国として観光学の発展の違いがうかがい知れるところです。(了)
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